黒部下の廊下 2009年10月4日〜5日

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  クニオ & たか
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yukiyama

10月4日(晴れ)

毎年のように計画するけど、天気や所用でなかなか実行出来ない「黒部下の廊下」
当初は欲張って、下の廊下から仙人池の裏剣を訪ねて、ハシゴ谷乗越から再び黒部ダムに戻る計画だが 前日に出発予定の土曜日に大切な所用が入り、急遽「下の廊下」だけに的を絞る事に、クニオの了解を得る。
信濃大町駅の駅前のタクシー会社に車を預け、トロリーバスの混雑を予想してタクシーで扇沢に向かう事にする。好天で大勢の観光客を予想したが、比較的人が少なく7時半のトロリーバスに乗り込み15分程で黒部ダムへ
バスを降りたら、改札を出ないでトンネルを進むと、左側にドアがありここが登山口のスタートになる。小さなトイレで用を済まし、外に出ると紺碧の空が眩しく今日の好天は約束されたようだ。
下流に黒部別山をみながら準備を始める。今日の遡行者は10人程、殆どが阿曽原を目指す登山者だ。背中を痛めてるクニオに考慮して、幕営装備と食料を引き受けたけど久々に重いザック。
此の時はまだ後半の足の痙攣を予想出来ず、意気揚々と歩き始めるのだが・・・。

扇沢駅
扇沢駅
スタート準備 am7:53
スタート準備 am7:53
ダムから見る黒部別山
ダムから見る黒部別山

木立の中を黒部川の瀬音が大きくなるのを聞きながら下ると、間もなく黒部川の本流にでる。簡単に作られた木の橋を渡り、見上げると黒四ダムから放流していて実に壮観だ。 暫し足を止めて他の登山者と一緒に写真撮影に興じる。暫くは穏やかな流れの黒部川に沿って、気持ちの良い歩きを楽しむ。行手に別山の大タテガビンが迫ってくると、真砂方面の分岐をみてまもなく内蔵助谷出合に着く。 先行した登山者が数人休んでいるので、我々も此処で大休止。

黒部本流 am8:15
黒部本流 am8:15

黒部三大岩壁の丸山東壁(黒部の巨人)が威圧的に聳え、内蔵助谷が狭く急に感じる。 何年前かに、ここで幕営していた登山者数人が土石流に巻き込まれた痛ましい事故を思い出した。

簡単に食事をして、暫くは「棒の木平」と呼ばれる穏やかな歩道を歩く。 大タテガビンの南東壁(黒部の魔神)が迫ると、いよいよ黒部下の廊下の最初の核心部に入って行く。眼前にゴルジュが迫った場所で持参したヘルメットを着ける様クニオに指示する。

黒四ダムを見上げる
黒四ダムを見上げる

遡行開始
遡行開始

内蔵助谷出合am9:08
内蔵助谷出合 am9:08
*黒部三大岩壁 丸山東壁(黒部の巨人)

下流に大タテガビン
下流に大タテガビン
*黒部の三大岩壁 南東壁(黒部の魔神)

別山の岩屋をみて黒部のヘツリが始まる。木の間から新越の滝が岩盤を落ちて来るのが見える。左手で針金を持ち右側に泡立つ本流を見下ろしながら、慎重に桟道やくり抜いた岩道を進む。
本流まで高さ50m以上あろうか、落ちたら濁流に揉まれ一命はあるまい。 時々ヘルメットが岩にぶつかるが、さすがヘルメットは頭上に気にしないですむ。むしろ気を付けるのは重荷でバランスを崩さないようにする事だ。

穏やかな棒の木平
穏やかな棒の木平

突然「此の先通行禁止」の看板が現れる。
ここが阿曽原の主人が言っていた桟道が落石で壊れた場所か。
「少し怖い思いするけど巻き道を応急処置してある」の言葉を思い出し上を見ると急拵えのハシゴが2段。 まるで正月に行なう消防団のハシゴ乗りみたいだ。空中に10m以上のハシゴが2段心細げに伸びている。
荷物に振られないようザックを締め直し、左だけにはめていた手袋を取り殆ど垂直のはしごを慎重に上る。 空中に身体を投げ出した様で高度感があり緊張する。2段目のハシゴには丸太一本で繋がれ、しかも揺れて足が震える。 登りきった所でクニオに声をかけ、下をみると高度感で目眩がしてくる。

クニオが登りきった所で、今度は反対側の岩場を再度ハシゴで水平道に戻る。 これを作った人はさぞ大変だったろうと感心してやまない。

新越の滝が見える
新越の滝が見える

黒部のヘツリが始まる
黒部のヘツリが始まる

渓が狭まり、ヘルメット装着
渓が狭まり、ヘルメット装着
ゴルジュを行く
ゴルジュを行く
別山谷手前で河原に降りる
別山谷手前で河原に降りる

別山谷の雪渓は通行禁止と聞いていたので、矢印に沿って雪のブロックの間を河原に下りる。

前方で黒部を渡渉している登山者が見え、渡渉もありかと興味深々。

別山谷の雪渓はすっかり細くなり、ブリッジも数日で崩壊しそうだ。 緊張でしっかり身体が硬くなったのを解し、持参した熱いお茶で咽喉を潤し昼食にする。 此処は黒部の核心部、両側とも切り立ったゴルジュでの一時の憩いの場所。

黒部別山谷出合am11:33
黒部別山谷出合 am11:33

出合から上流を見る
出合から上流を見る

河原より再び水平歩道へ
河原より再び水平歩道へ
狭まる渓を慎重に
狭まる渓を慎重に
白竜峡 am12:17
白竜峡 am12:17

安全用の針金を片手に
安全用の針金を片手に

河原で食事は何故か心休まるのだ、でもまだ白竜峡、十字峡と黒部の見せ場が現れる。
その証拠に行手に一段と狭まった渓が見えている。 何と事のない渡渉を終え、再び歩道へロープで登り、白竜峡のゴルジュ地帯に突入。

時々狭い歩道を岩を抱きながら通過して、次第に川床から高度を上げて行く。

対岸に素晴らしいツルツルしている岩壁をみながら下を見ると、なるほど竜が怒り狂ってような流れ、これが「白竜峡」か。

廊下は一段と狭くなり、空の青さも見えなくなってしまった。歩道の無かった頃は先人は如何して此処を通過したのだろう。

無事難所を通過 広河原
無事難所を通過 広河原

十字峡pm1:36
十字峡 pm1:36

剣沢を渡る
剣沢を渡る

穏やかな渓と歩道の広河原と呼ばれる場所から腿の痙攣が始まる。
何度か止まりストレッチを試みるが、暫く歩くと両腿とも痙攣してちょっとした広場で大休止。

居合わせた単独の登山者に「十字峡はまだですかね」と聞くと「此処がそうですよ」の返事。
なるほど木陰を覗くと、下方に青く淀んだ淵が見える。 腿の痙攣で夢にまでみた十字峡の絶景も、今の僕にはそれどころで無くなってしまったのか。

S字峡
S字峡

渓も開けてくる
渓も開けてくる

やっと痙攣が治まり、剣沢に架かる吊橋から十字峡を望むが、以外と棒小屋沢の水量が細く迫力が乏しい。 黒部の先人冠松次郎がまさに絶景と驚嘆した頃に比べると、ダムにより水量がはるかに乏しくなったのか。
それでも、自分は今この場所に立っている。学生時代から憧れの場所だった黒部の秘境に浸っている。 何時又来る事が出来るのか、眼の奥に焼き付けて名残惜しいが先を目指そう。
比較的穏やかな景色の険しさの無くなった歩道を、時々襲う腿の痙攣を気にしながら歩く。 再び渓が狭まり半月峡を確認せずに通り過ぎてしまう、遥か下にS字峡らしき渓が見える。

関電の発電所が見える
関電の発電所が見える

東谷吊橋 pm3:24
東谷吊橋 pm3:24

対岸の山肌に人工物の建物が見え、黒部川に下り始めると間もなく「東谷吊橋」

ユラユラ揺れる長い吊橋を、これも高度感が充分ある橋を渡ると辺りは人工物が多くなる。

突然現れた林道を、川岸に沿って20分程歩くと仙人谷ダム。

仙人谷ダム pm3:49
仙人谷ダム pm3:49

昔渓流釣り釣り仲間と黒薙や小黒部に通った頃、仙人谷には岩魚が足に当る程いるから・・・と計画したのを思い出す。
仙人谷ダムで迎えてくれたのは猿の群れ、ボスらしい大猿は人をみても吃驚もせず「ご苦労さん」と言ってるよう。 ダムサイトから建物に入り、案内に導かれムッと熱いトンネルを抜けると、いきなりトロッコ電車の軌道を横切る。
「熊が入るので戸を閉めて下さい」の看板を見ながら再び外に出ると、なんと吃驚!4階立ての宿舎が2棟。 地下発電所とダム工事の遺産物か?
人間の力は恐ろしい、その時必要ならどんな場所でも開発してしまう。 電力がもし無尽蔵に太陽光からでも供給出来るようになったら、後世の人はどんな思いでこの遺産物を眺めるのだろう。 それでも突然現れた人工物に不思議な安堵感を覚えながら、急坂を痙攣を我慢しながら水平道を暫く行くと阿曽原への下り。 今度は膝の痛みに、クニオからストックを借りダブルストックでヨタヨタ歩くと、間近に阿曽原温泉小屋の青い屋根が見えてくる。

猿のお出迎え
猿のお出迎え
ダム内部へ
ダム内部へ
4階建の宿舎
4階建の宿舎
阿曽原温泉小屋 pm4:51
阿曽原温泉小屋 pm4:51
阿曽原露天風呂
阿曽原露天風呂
テントサイト
テントサイト

暗くなる前にテントを張り荷物を整理して、風呂上りのビールを楽しみに乾杯のビールは暫しお預け。
手拭を肩に、これも今回楽しみの一つ「阿曽原露天風呂」に痛む足を我慢して湯に向かう。

吉村昭の「高熱隧道」は書店に無く読まずにきてしまい、誰かさんに怒られそうだけど手を合わせて入浴。 ここで尊い命を捧げた人々には悪いけど、今の自分にはまるで天国に浸かってるようだ。
暖まった身体で、サトウのごはんで親子丼の夕食。もちろんその前に2人で咽喉を鳴らしてビールで乾杯。 今日の小屋は100人以上の過密状態とか、殆どは仙人池からの下山者とか言ってたけど幕営場は10張り程度。
水洗トイレに、蛇口の着いた水場と洗い場。しかも下は草地でホカホカ状態。 折りしも顔をだした一日遅れの中秋の名月を見ながら、クニオは早くも高鼾。 自分はと言うと、あまりの大きな月に月見酒の代わりに持参したウイスキーをチビリチビリ。

一日送れの中秋の名月で
一日送れの中秋の名月で

10月5日(曇り)

眼が覚めると、すでに4時をまわっている。やはりテントは熟睡できる。 今日は5時間程の行程だけど、11時にはトロッコに乗らないと大町には遅くなってしまう。
どんなに遅くなっても6時には出発する事を、朝風呂に入るというクニオに伝える。
ラーメンと残り物のごった煮で朝食をとるが、以外とこれがクニオに好評。
テントを片付け、荷物を整理したら6時をまわってしまったので急いで出発。 阿曽原谷を横切り、穏やかな道から阿曽原の露天風呂が良く見える。
暫くすると急登が始まり、この山行で初めての汗が噴出す。 温泉で揉み解した足は快調で、昨日の痛みは殆ど無く先行した登山者を何人か抜いて行く。 高度をどんどん上げ、やがて水平歩道に出ると黒部川もはるか眼下に見える。


阿曽原出発 am6:10

滝が見える
滝が見える

折尾谷の滝 am7:16
折尾谷の滝 am7:16

大太鼓方面
大太鼓方面

大太鼓で記念写真
大太鼓で記念写真
志合谷のトンネルで
志合谷のトンネルで

折尾谷に回り込みを始めると、対岸の岩壁の合間に刻まれた歩道が見え、自分達がいかに高い所を通過してるか確認できる。
折尾谷の手前の滝で数人の登山者が休んでいるのが見えると間もなく出合。 此の先にはあまり休む所が無さそうなので此処で休憩。
砂防提の有る折尾谷をトンネルで通過して、良く写真で見る「大太鼓」の絶景地に向かう。 此処が本日唯一の難所、だけど下の廊下を通過してきた自分達には慣れてしまった。 良くこんな岩壁に水平歩道を作った物だと、ただただ感心してしまう。
遠くに欅平を望み、汽笛の音が遥かに聞こえてくるが、まだまだ2時間はかかる。 少し飽き始めた水平歩道を行くと、やがて志合谷のトンネルに入る。 ヘルメットに付けたままのヘッデンを点け、一人やっとの狭いトンネルを流れる水に足元を濡らして通過。

旧日電水平歩道の絶景
旧日電水平歩道の絶景

遥か下に黒部川
遥か下に黒部川

後立山方面が見える
後立山方面が見える
欅平駅が見える
欅平駅が見える
奥鐘山と西壁 *黒部の怪人(黒部三大岩壁)
奥鐘山と西壁  *黒部の怪人(黒部三大岩壁)

欅平駅 am10:48
欅平駅 am10:48

対岸に奥鐘山の西壁(黒部の怪人)の迫力有る大岩壁を見ながら少し飽きて無口になった2人。
何時までも変わらない景色がやっと開け空が大きくなる頃、水平道から開放され欅平への下りに入る。 対岸に眼をやると、祖母谷の上に後立山が見えている。
何人かすれ違う登山者に「ご苦労様です」と言われ、不審に思ったら黄色のヘルメットのせいだと感づいた。 クニオに工事人のヘルメットみたいだと言われたので、多分先程何人かいた工事人と間違われたのか。 煩雑に駅の案内音や汽笛が聞こえ、鉄塔が現れるとやっと欅平駅だ。

5分後に出るというトロッコに飛び乗り、宇奈月でゆっくりする事にする。
空いているトロッコで、若い女性が食べてるソフトクリームをつい見つめていたら睨まれたけど 乗る前に自分も買ってくれば良かったと、宇奈月に着くまで後悔してしまった。
電車の待ち合わせの時間は,温泉でもと思ったけど食い気が優先でとても無理。 駅前の食堂でクニオの注文した「白海老の天丼」を見ながら、「あ〜俺もご飯物にすれば良かった」 と、信州蕎麦に慣れた自分には、ちょっと物足りない蕎麦を食べる。そう言えば朝もラーメンだったけ。
信濃大町までは3回の乗り継ぎ、新魚津の駅では「最近貴方達みたいに、この時間に同じ切符を買う人が多いけど」 と聞かれ、「え〜、大町から黒部川を降りてきたので」と言うと「此の時期川下りですか?」と感心された。
ま〜、この時期は短い黒部のシーズンだから、この行程で大町に戻る人が多いのだろうね。

トロッコ電車で
トロッコ電車で
黒薙に架かる古い橋
黒薙に架かる古い橋
宇奈月の町へ
宇奈月の町へ
宇奈月温泉へ無事到着 pm12:18
宇奈月温泉へ無事到着 pm12:18

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長年の憧れだった「黒部下の廊下」シーズンが短いだけに大勢の登山者が集中する此の時期。
日曜出発のせいか、比較的静かな山旅が出来ました。 鷲羽岳に源を発しアルプスの山々を縦断して、時には荒々しく、時には穏やかな川面を見せる。
厳しい下の廊下の中にも、ホッとするような淵が神秘的に出現し癒される事がある。 それでも怒り狂うと、その流れは濁流となり川床も数mも上ると言われる。
今回は素晴らしい天気の中、ザックの荷は重かったけど、その苦労に労れる幕営場と露天風呂。 自然美の素晴らしさと先達の冒険心、大いなる自然に挑んだ人々の飽くなき挑戦が交差した 今までの山旅と一味違う山行になりました。 残念ながら紅葉には早かったけど、機会があったら再度紅葉の時に訪ねてみたいものです。



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